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■『戦旗』1611号(4月5日)3面

  
岸田政権の戦争準備と一体の
   経済安全保障推進法案成立阻止

                              
小出一好


 経済安全保障推進法案が、三月一七日審議入りした。岸田政権の公約であり、今国会における重要法案として位置付けられている。
 この法案の基となっているのは、経済安全保障という発想である。経済安全保障とは、経済的手段によって安全保障を実現する、というもので「経済による戦争」とも言える。


●1章 「経済安全保障」に到った現代帝国主義

 経済安全保障という発想は、中国の経済的政治的台頭と「対テロ」戦争の軍事費の濫費と敗退が、米帝の世界一極支配を崩壊させる事態へと至り、米帝はトランプ政権が中国の台頭を阻止し世界支配体制を護持するために、経済政策の分野で「米中貿易戦争」を仕掛けたことから始まる。
 トランプ政権が開始した貿易戦争を簡単に振り返ると、二〇一八年から始まった。中国からの輸入品八一八品目(三四〇億ドル相当)に対して25%の関税をかけると宣言、中国も直ちにアメリカからの輸入品五四五品目、(三四〇億ドル相当)に対して25%の報復関税を課した。その後も、両国が報復関税を追加し、最終的には米帝が中国製品に関税をかけた品目は、五七四五品目で二〇〇〇億ドル規模になり、中国側は五二〇七品目、六二〇〇億ドル規模になった。結局、トランプ政権は中国から輸入する品目のほぼ半分に関税を追加するという状況になった。
 対立は、関税の引き上げ合戦に止まらず、通信インフラ分野で安全保障に理由に、中国・ファーウェイ社の製品を排除するなどハイテク分野の覇権争い――背景には、次世代通信規格の5Gで世界の通信網を中国に握られることへの危機感がある――、知的財産権の保護、ウイグル自治区問題などを米帝は持ち出し、中国の台頭を阻止する姿勢を鮮明にした。米中貿易戦争は、二国間の問題にとどまるわけもなく、世界貿易全体の収縮をもたらした。
 政権は、トランプからバイデンへと交代したが、日帝や欧州帝などの同盟国を巻き込んだ中国包囲網の強化が続いている。しかし、二〇二〇年からの新型コロナウイルスの世界的感染拡大によって、米中間の貿易戦争はいったんの休戦状態が続いている。
 そしてロシア・プーチン政権のウクライナ侵攻・侵略戦争によって、米帝や欧州帝の矛先がロシアへと向かっているため、今後の米中対立の展開は全く予測ができない。特に、米帝がロシアを追い詰めるために開始した経済制裁は、原油や穀物価格の高騰やエネルギー供給体制の不安定化、世界的な金融システムの切断など、ロシアだけではなく帝国主義にも激甚な影響を与える事態になることは間違いない。新型コロナウイルス・パンデミックの只中で、帝国主義が進めてきた新自由主義グローバリゼーションは限界を露呈しており、不可逆的な時代に突き進んでいくことになるだろう。帝国主義と中国・ロシアを軸にした分断と対立の時代への転換が始まっている。
 日帝の対中国政策は、米帝への従属と経済的実利の狭間で定まらず、経済安全保障法案も法施行の目的を失いかねない事態が出来するかもしれない。日帝資本にとって中国、米帝はともに重要な貿易相手国であり、米帝の要求でも中国との経済関係を断ち切ることはできない。特に、中国に生産拠点を置く日本企業は多く、短期間で代替ができる状況ではない。
 この状況は、米帝にも当てはまることで、一例としてアップルはその製品のほとんどを中国で組み立てて生産している。
 これこそが、現代帝国主義が抱えるグローバリゼーションと経済安全保障という矛盾なのである。


●2章 経済安全保障推進法案の成立を許すな

 経済安全保障推進法案の内容を確認しておく。法案は、「供給網(サプライチェーン)強化」「基幹インフラの事前審査」「先端技術の官民協力」「軍事転用可能な機微技術の特許非公開」の四分野で構成されている。
 供給網強化は、半導体・医薬品などを念頭に「特定重要物資」を指定し、財政・金融支援措置を講ずる。具体的には、半導体や医薬品など重要物資が、安定的に供給される体制になっているか国がチェックする。国に企業の調達先などを調査する権限を与え、特定の国に調達を頼りすぎていないかなどを調べる。対象となる企業は、安定的な供給に向けた生産体制などの計画を国に提出し、認証を受ける。認証を受けた企業は、必要に応じて国から、金融支援を受けられる。先端技術協力では、人工知能(AI)などの「特定重要技術」を資金支援し、官民の研究体制の拡充を図る。
 基幹インフラは、サイバー攻撃対策のため政府が設備や管理体制を事前審査する。システムに脆弱性がないかなどをチェックし、攻撃を受ける恐れが高いとみなされた場合には、必要な措置を取るよう国が勧告や命令を出せる。また外国製品が重要設備に使われていないか、国が事前審査も行える。対象は、電気、ガス、石油、水道、電気通信、放送、郵便、金融、クレジットカード、鉄道、貨物自動車運送、外航貨物、航空、空港の一四業種から絞る。
 供給網強化と先端技術協力の二分野は、法律の公布後九カ月以内に施行する。
基幹インフラは、公布後一年六カ月以内に審査対象を指定、審査や設備変更などの命令措置は、一年九カ月以内に施行する。
 特許非公開は、軍事にかかわる技術の中から、特許出願を非公開にできる制度。一方、出願者は本来なら特許収入が得られるところを非公開にするので、不利益を被らないよう国が補償を行うとしている。
 法案では、明記はしていないが中国を念頭に置いていることは明らかで、米帝に追随し中国製品の排除や先端技術分野での台頭に対抗する内容になっている。日帝独占資本は、基本的には法案の内容を是認し成立を支持しているが、生産活動への国の介入や過度の規制や制限に警戒感を抱いている。経団連・日本商工会議所・関西経済連合会が三月一四日に発表した「経済安全保障推進法案の早期成立を求める」という声明の中では、「各分野の基本指針や政省令に委ねられている制度の具体化にあたっては、事業に過度の負担が生じることのないように、対象をできる限り絞り込むべきである。とりわけ、基幹インフラの安全性・信頼性の確保の対象となる事業者や設備の指定にあたっては、中小企業への負担や影響に特段の配慮が求められる」とくぎを刺している。
 経済安全保障推進法案が、経済政策における米帝の中国封じ込め戦略に追随する日帝―岸田政権の方針であることは明らかだ。中国との戦争を見据えた階級支配と経済体制の再編の攻撃であると捉えなくてはならない。中国への敵視と排外主義をはらむ経済安全保障推進法案の成立に断固反対していこう。           






 


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